上村 裕也「……ん……えっ!?」
キキーッドンッ!
「誰かっ! 誰かーっ!」
上村 裕也(痛い痛い……いや、あんまり痛くない……かも。)
「もしもし? 聞こえる? 大丈夫?」
「先に救急車だろ! 救急車!」
上村 裕也(これって死ぬのかな。)
死ぬ時は痛くて苦しくて辛いものだと思ってた。
俺が思っていたよりもフワフワしていて身近な感じだ。
これなら死も悪くないかな。
「…………」
上村 裕也(あれ?)
上村 裕也(事故に遭って、倒れて……。)
上村 裕也(よかった~。死ぬのかと思った。)
そうだよな、アレぐらいで死ぬ訳ないよな。
死ぬ時はもっと痛くて苦しくて辛いはずだし。
そんなに悪い事もしてないし、血も出てなかったし。
上村 裕也(あれ? 雨降ってたっけ?)
そういや俺を轢いた車は何処へ行ったんだ?
俺が気を失ってる間に解決したのか?
まさか、逃げたのか?
事故に遭うし、雨は降るし、良い事ないな。
上村 裕也「ただいま。」
「……」
本当に俺の家か?
誰もいないのか?
テレビの音も生活音も聞こえない。
俺が家を出た時は舞が夕食の準備をしていたのに。
上村 裕也「舞、まーいー?」
上村 裕也(なんだ、いないのかと思ったら……。)
上村 裕也「ただいま。」
上村 舞「……」
上村 裕也「そうそう! さっき事故に遭ってさ、死にかけたよ。」
上村 舞「……」
上村 裕也「クリーニング屋は明日行くから、機嫌直せよ。」
上村 舞「……裕也。」
上村 裕也「ん? なに?」
上村 舞「……」
上村 裕也「言い掛けて辞めるなよ、気になるから。」
上村 舞「……ン……スン……スン……」
上村 裕也「俺が何か悪い事……いや、ごめん。」
上村 裕也「よく分からないけど、ごめんな。」
上村 舞「……スン……独りに……しないでよ。」
上村 裕也「クリーニング屋に一緒に行きたかったの?」
上村 舞「……スン……スン……寂しい……」
上村 裕也「どうしたの?俺がクリーニング屋に行ってる間に何かあったの?」
上村 舞「……私……スン……どうしたら……」
晴れそうもない空と、泣き止みそうもない舞。
俺の心も曇天になり、どうしたものかと思案に暮れる。
ふと、テーブルの上へ無造作に置かれた葉書の束が目に映った。
上村 裕也(あ、俺宛だ。)
内容は読んではいないが俺の名前が目にとまった。
『本日はお忙しい中、上村裕也の告別式にご参列頂きま……』
上村 裕也(……ん。んん?)
俺が誰の告別式に参列したって?
いや違う、違うぞ。
参列したのが俺……ではなくて。
あれ? 何だっけ? 焦ってるな。
落ち着け、俺。
上村裕也の告別式って事は……。
上村 裕也(ミスプリントって事か!)
上村 舞「裕也、裕也……ウワァァァァァン。」
上村 舞「……帰ってきてよ……ウワァァァン。」
上村 裕也「この手紙の事なんだけどさ……」
上村 舞「ウワァァァァァン。」
上村 裕也「舞、聞こえてる?舞?」
舞の視界を手で遮る。
舞は遠くを見つめながら泣いているままだった。
上村 裕也「……もしかして本当に……」